ていないのです。――そのくせ私は、銀行にお金を預けることが出来ないんです。私は銀行家を信用したことはまだ一度もありません。ですから、私は、私の持っているすべてのものは、みんなあの箱の中にしまってあるのです。――と、これだけ申上げれば、私の部屋に見ず知らずの人間が這入って来ると云うことは、私にとってどれほど重大な問題であるかと云うことは、お分かりになるだろうと思います」
ホームズはもの問いたげな様子をして、ブレシントンを眺めた。そしてそれから首をふった。
「もしあなたが私を信用なさらないのなら、私はあなたに、何もお力になって上げることは出来ませんよ」
彼は云った。
「いえいえ、しかし何もかもあなたにお話ししたんです」
ホームズは不愉快そうな顔をして、彼の踵《きびす》をめぐらすと、
「さようなら、トレベリアン博士」
と、彼は声をかけた。
「私には何も相談に乗っていただけないんですか?」
ブレシントンは、うろたえた声で叫んだ。
「あなたに申上げたいことは、真実をお話しなさいと云うことだけです」
それから数分の後、私たちは街へ出て、家路を辿りつつあった。私たちはオックスフォード街を
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