ょう。それから若い男はそっち側にいて、抽出《ひきだ》しの縁[#「縁」は底本では「椽」]で煙草の灰を落していたんです。そして三番目の奴は、その辺をいったり来たりしていたんでしょう。ブレシントン氏は、たぶんベットの上にすわらされていたんだろうと私は思うんですが、しかしどれも確かじアありません。
 やがて彼等の相談は、ブレシントンを吊るして首をくくらせようという事にきまったのです。――そこで奴等は、何かの用にしようと思って持って来た滑車を絞首台をつくるのに応用したんですね。その螺旋廻しと螺旋とで、それをしっかりそこにくくりつけたんです。それからブレシントンをそこにぶらさげたんですね。こう云う風にして、すっかり細工をし上げてから、彼等は悠々と入口から出ていったのですが、そのあとはちゃんと彼等の共謀者が家の中にいて、閂をかけておいたものだと、私は思うんです」
 私たちは非常に深い興味を以って、その前の晩の出来事の話をきいた。ホームズはそれらの話を、彼が説明してくれている時でさえ、私たちは気のつかないような小さな、捕えどころのないようなことから推論して話してくれるのであった。探偵はやがて、いそいで、例の案内係りのボーイをさがしに出かけていったので、ホームズと私とは朝飯をたべにブルックストリートに帰って来た。
「僕は三時までには帰って来る」
 ホームズは朝飯をすましてしまうとそう云った。
「探偵と医者とが、たぶん三時には僕たちをたずねて来るだろう。僕はそれまでに、まだ少し残っている小さな不明瞭な個所をすっかり調べ上げてしまいたいんだ」
 そして彼は出かけていった。
 やがて彼が云った三時になると、私たちの訪問客はちゃんとやって来た。しかし私の友達が帰って来たのは、四時二十五分前のことだった。――私は彼が這入って来た時、彼の表情を見て、これはすっかりうまくいったんだな、とそう思った。
「何か変ったことがありましたかな、探偵」
「例のボーイを捕えましたよ」
「そりア素適な手柄です。――私はまた例の奴等の正体をひっつかんで来ました」
「何者だか分かったんですか」
 私たちはみんな一時に叫んだ。
「少くも奴等が何者であるかと云うことだけは内偵して来ました。――私の睨んだ所によると、このいわゆるブレシントンと云う男も、それからブレシントンを殺ろした男も、共に探偵本部ではよく知られている男だ
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