彼はそう云いながら、自分の手で自分の額を押えた。
「一体、どうしたと云うんです?」
「ブレシントンが、自殺をしちまったんですよ」
 ホームズは驚きの声をあげた。
「そうなんです。昨夜《ゆうべ》のうちに、ブレシントンは首をくくっちまったんです」
 私たちは家の中に這入っていった。そして医者は、私たちをたぶん待合室であろうと思われる部屋に案内していった。
「実際、私はどうしたらいいのか、全く分からないんです」
 トレベリアンは云った。
「巡査はもうとうに来て二階にいます。私はただもうふるえているばかりです」
「あなたが自殺を見つけたのはいつ頃ですか?」
「彼は毎朝早く、きまってお茶を一杯飲むのが習慣だったんですが、今朝も七時に女中がお茶を持って部屋に這入って行くと、その時には既に、彼は部屋の真ん中にブラさがっていたのだと云うことです。――いつもあの重いランプをかけることにしていた鈞《はり》に、紐をむすびつけて、昨日私たちに見せたあの箱の上から飛んでぶらさがったものらしいですね」
 ホームズはしばらくの間じっと考えて立っていた。
「ねえどうでしょう」
 ホームズはやがて云った。
「僕も二階へいって、事件を調べてみたいんですがね」
 そこで私たちは医者につれられて二階に上って行った。
 そうして私たちがその寝室に這入って見た光景は、実に恐ろしい眺めだった。私は、これがブレシントンかと思われるように、グニャリとしてたれさがっていたその様子を、どうしてもここに書き現すことは出来ない。その鈞《はり》からぶらさがっている様子は、どうしても人間だとは思われなかったと云っても、少しも誇張ではないのである。その首は、ひねられた鶏の首のように伸びて、余計にからだ全体を太っているように見せ、その対象の奇妙さと云ったらなかった。それはブレシントンの長い寝巻きをまとった粘土細工で、その下からふくれ上った踵と不恰好な足とがニョキッとまる出しになっているのにすぎないのであった。――そしてその側にはすばしっこそうな警察の探偵が立って、しきりに懐中手帳に何か書きとめていた。
「ああホームズさん」
 ホームズが這入って行くと彼は云った。
「あなたがいらしって下すったのは、大変有難いです」
「お早う、レーナー君」
 ホームズは答えた。
「余計な奴が闖入して来たと思わないでくれたまえよ。――君はこの事件
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