をすることが出来て、こんな嬉しいことはないよ」
 彼は語り出した。
「君、この脊の高い男が、何時間かの間を、一|呎《フィート》も身体を縮めていなければならないと云うことは、全く冗談ごとではないからね。しかしわが親愛な相棒君、――この種々《いろいろ》の話をする前に、もし君が協力してくれるなら、ここに一つの困難な、かなり危険な夜の仕事があるのだが、いずれそれをすましてからの方が、君に一切の顛末を話すのに、好都合だと思われるんだがね」
「いやしかし僕は、好奇心で一ぱいなんだが、今すぐにききたいものだがね」
「じゃ君は今夜、僕と一緒に来てくれるかね?」
「ああ行くとも、――いつでもどこにでもゆくよ」
「さて、これでまた昔通りになったわけだね。しかしまだちょっとした食事をとるだけの時間はあるのだが、出かける前にちょっとすまそうじゃないかね。さてそうしていよいよ、断崖談としようさ。ところがね君、僕はあすこから遁《に》げ出すのには、決して大した苦労はしなかったのだ。と云うのは、実は僕は、あの中に落っこちはしなかったのさ」
「落っこちはしなかったって?」
「もちろんさ、ワトソン君、僕は実は落っこちなか
前へ 次へ
全53ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三上 於菟吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング