を申し上げて、またその上に、わざわざ本までも拾って下さった御親切に、お礼を申そうと思ってのことですよ」
「いや、それはあんまり御叮嚀すぎますな、しかし失礼ですがあなたは、どうして私を御存じなのでした?」
私は訊ねた。
「御尤もです、いや、実はその、――私は、御宅の御近所の者です。あの教会の通りの角に、小さな本屋のあるのを御存じなされますか、――あれが私の貧弱な店ですが、どうぞお訊ね下されば光栄の至りです。それでよく合点のゆかれたことと思いますが、さて、ここに、「英国の禽鳥界」「カツラス」(訳者註、紀元直前頃のローマの大詩人)「宗教戦争」と云う本がございますが、これはいずれもなかなかの掘り出しものです。あの本棚の第二段目の空所《すき》は、せいぜい五六冊もあれば、きちんと埋まりますが、いかがですか? あの空所《すき》は何ですか不体裁でございますよ」
私はこう云われて、頭をめぐらして、後の本棚を見た。そしてまた振り返ると、机の向うから、シャーロック・ホームズが、微笑しながらこっちを向いて立っている。私はすっくと立ち上った。そして数秒間の間、私は、混乱するような驚愕と共に、彼を見つめた。そ
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