口を頼んでみたんですが、しかしそこにいる連中の運命もまた、私の経験した運命と同じような位置におかれている奴ばかりなんです。そんなわけで、私は長い間、全く失業状態におちてしまいました。私はコクソンの店にいる時は、一週に三ポンドもらっていましたので、それを貯金して七十|磅《ポンド》持っていました。私はそのお金のあるうちに、何か仕事をさがし出さなくてはならないのです。けれどほどなくそのお金もなくなってしまいました。そして求人広告に応募して手紙を出したくてもその切手もまた切手を貼る封筒もなくなってしまったんです。私は歩き廻りました。靴の底がすり切れるまでほうぼうの事務所の階段を上ったり下ったりしました。私はもう前のような職にありつくことは出来ないかと思いました。
ところがとうとう見つけたんです。ロンバルト街の大きな株式仲買店で、モーソン・ウィリアム商会と云う所に欠員を。そりア、そんなロンドンの中央東部郵便区なんて云う場所は、あなたの趣味には合わないでしょうけれど、しかしその商会はロンドンでも最も金持ちのほうなんです。――それは前に、広告を見て手紙を出しといたんですけど、たったそこ一軒だけから
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