ホームズを見ると、彼の顔は緊張して、激しい昂奮のため、からだを前こごみにしていた。と、その時ふいに、低いゴロゴロゴロゴロと云う含嗽《うがい》するような音につづいて、木の上をはげしくたたく音が聞えて来た。ホームズは気違いのように部屋を走っていって、ドアを押した。それは内側から固く閉されていた。私たちはホームズに従って、私たちの全身の重みでドアにぶつかっていった。一つの蝶番《ちょうつがい》がとれ、それからもう一つのがとれ、ドアはガタンと倒れた。私たちはそれを乗り越えて中の部屋に飛び込んだ。
 が、そこには誰もいなかった。
 しかし私たちが油断していたのはほんのわずかな時間に過ぎなかったのだ。と、片方の隅に、――私たちが出て来た部屋に近いほうの隅に、もう一つのドアがついていた。ホームズはそこにとびついて引きあけた。するとそこの床の上には、上衣《うわぎ》やチョッキがぬぎすててあって、そしてドアの背後についている鉤金《かぎがね》に、フランス中部鉄器株式会社の専務取締役が、自分の首の廻りに自分のズボンツリをまきつけてブラさがっていた。彼は両足を揃えて、彼の首は前のほうへ無気味な恰好にダランとたれて
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