葡萄酒の最初の一滴を一吸い吸い込んだ時のような、嬉しそうなそれでいて何かを批判しているような顔つきをして、クッションに背をもたせながら、私のほうへ斜に視線を投げかけた。
「面白い問題じゃないか。ねえ、ワトソン」
と、ホームズは云った。
「これには僕を喜ばせる点があるよ。君も賛成するだろう。二人でアーサー・ハリー・ピナー氏に、そのフランス中部鉄器株式会社の仮事務所で会見することは、むしろ我々に興味のある経験だと云うことに」
「しかしどうしたら会えるだろう?」
私はきいた。
「ああそりアごくやさしいことですよ」
と、ホール・ピイクロフトは快活に云った。
「あなた二人は職をさがしている私の友達で、何かに使ってもらおうと思って専務取締役に引き合せるためにつれて来た、と云うこれより自然な方法はないでしょう?」
「もちろん、そうだ!」
ホームズは云った。
「私はその男に会って、私が何かその男のやってる小さな計画《けいが》についてしてやることが出来るように見せかけなくちゃならないね。――ところで、君はどんなことをするかね、最も有効に働くには? それとも出来れば……」
彼は爪をかみ初めた。そ
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