のです。無論あなたは兄弟は似ているとおっしゃるでしょう。しかし同じ歯を同じようなやり方でうめるわけがないではありませんか。――彼は私を送り出しました。そして私は通りへ出ましたが、無我夢中で、足で歩いてるのか頭で歩いてるのか分かりませんでした。私はホテルへ帰りつくと、冷たい水で頭をひやして、そのことを考えてみました。――なぜ彼はロンドンからバーミングハムへ私を寄越したんだろう……またなぜ彼は私に近寄って来たのだろう。そして何の必要があって彼は、自分自身から自分自身へあてた手紙などを私に持たせてよこしたのだろう? ――これらのことは私にはあまりに問題が多すぎて、判断が出来ないのです。その時ふと私は、私には何が何だか分からないことも、シャーロック・ホームズさんには分かるだろうと云う事に考えついたんです。で、私はすぐさま夜中《やちゅう》に乗り込んで、今朝お目にかかって、そのままバーミングハムへ私と一しょに来ていただこうと思ってやって来たわけなのでございます」
株式仲買店事務員は彼の不思議な経験を話し終ってから、ちょっとだまった。と、シャーロック・ホームズは、ちょうどお酒の鑑賞家が、素晴らしい葡萄酒の最初の一滴を一吸い吸い込んだ時のような、嬉しそうなそれでいて何かを批判しているような顔つきをして、クッションに背をもたせながら、私のほうへ斜に視線を投げかけた。
「面白い問題じゃないか。ねえ、ワトソン」
と、ホームズは云った。
「これには僕を喜ばせる点があるよ。君も賛成するだろう。二人でアーサー・ハリー・ピナー氏に、そのフランス中部鉄器株式会社の仮事務所で会見することは、むしろ我々に興味のある経験だと云うことに」
「しかしどうしたら会えるだろう?」
私はきいた。
「ああそりアごくやさしいことですよ」
と、ホール・ピイクロフトは快活に云った。
「あなた二人は職をさがしている私の友達で、何かに使ってもらおうと思って専務取締役に引き合せるためにつれて来た、と云うこれより自然な方法はないでしょう?」
「もちろん、そうだ!」
ホームズは云った。
「私はその男に会って、私が何かその男のやってる小さな計画《けいが》についてしてやることが出来るように見せかけなくちゃならないね。――ところで、君はどんなことをするかね、最も有効に働くには? それとも出来れば……」
彼は爪をかみ初めた。そ
前へ
次へ
全22ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三上 於菟吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング