ってしまったので、私たちは顔と顔とを向き合せていました。私も身体をこごめました。そして鉄砲を取り出して、彼を脅かして自分も遁げようとしました。しかし彼は発射し、しかも弾丸は外れました。それで私もほとんどおくれずに引き金を引きました。彼は斃れたのです。私はそれから庭を横切って遁げましたが、私の後から窓を閉める音がきこえたのでした。皆さんこれは、すべて有りのままで、神明に誓って偽りはありません。そして私は、その後は、あの若者がこの手紙を持って来て、私が、まるでむくどり[#「むくどり」に傍点]のように、あなた方の網にかかってしまうまでは、何にも知りませんでした」
 亜米利加《アメリカ》人が話している中に、馬車は着いていた。その中には制服の巡査が二人いた。検察官マーテンは起ち上って、犯人の肩に手をかけた。
「さあ行こう、――」
「ちょっと彼の女に逢わせて下さいませんでしょうか?」
「いや、夫人はまだ意識が回復しないのだ。シャーロック・ホームズ先生、――何卒この後も重大事件が突発した時は、よろしく御助力下さいますよう、幾重にもお願い申します」
 私たちは窓際に立って、馬車の遠ざかってゆくのを眺め
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