云った。
「さてスラネー君、君をノーアウッドに、連れてゆく馬車が来た。しかしまだ、君の悪業に対して、多少の罪滅しをする時間はある。君は気がついているかどうか、――実はヒルトン・キューピット夫人は、夫君《ふくん》の殺害に対して、非常に重大な嫌疑を受けていたのだが、幸いに僕が現われて、たまたま持ち合せていた智識で、夫人は告発されることを免れることとなったのだ。それで君の夫人に対する、最後の償《つぐない》として、夫人はこの大悲惨事に対しては、直接にも間接にも、全然責任はないものであると云うことを、全世界に明瞭にしたまえ」
「もうどうにでもなるがよい」
 亜米利加《アメリカ》人は云った。
「えい一そのこと、何もかも有りのままにさらけ出してしまいましょう」
「そうだ。それが一番君のためなのだ。本職もそれを君にすすめる」
 検察官はあたかも英国刑法の、厳粛な公明を示すものの如く云った。
 スラネーは肩をすくめた。
「早速申し上げましょう」
 彼は語り出した。
「まず第一に皆さんの御了解を得たいことは、私はあの夫人とは、ごく小供の時からの知り合いであると云うことです。私共も七人の仲間で市俄古《シカゴ
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