、彼の女は、不幸極まるものになってしまったのだ。君も一人の貴人を殺し、しかしてその妻を自殺させて、もうそれで万事休矣《ばんじきゅうす》というものさ。君のお手柄の一切はこれだけだが、さてアベー・スラネー君、この上はただ法の適用を受けるだけさ」
「もしエルシーが死ぬなら、そりゃもうこの身体などは、どうなったっておかまいなしだ」
 その亜米利加《アメリカ》人は云った。そして彼は片方の掌《てのひら》に、皺くしゃになっていた書ものに見入った。
「これを御覧下さい」
 彼は目を疑い深く閃かせながら叫ぶのであった。
「あなた方は私をおどかしているのではないでしょうね? もし彼の女があなた方の仰せのように非常に重態であるとしたら、一たい誰がこの手紙をかいたのでしょう?」
 彼はその紙片をテーブルの上に投げてよこした。
「君をここに来させるために、僕が書いたのだ」
「あなたが書きましたって? この世界中でわれわれの仲間の外《ほか》は、誰もこの舞踏人の秘密を解るものが無いのですよ。どうしてあなたなどが書けるものですか?」
「君、誰かが案出したものとすれば、また誰かがそれを解くことが出来るさ」
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