高い、男振りのよい、色の浅黒い顔で、灰色のフランネルの着物を着てパナマの帽子を冠り、剛《こわ》い黒い髭をはやし、高い圧倒的な鼻をうごめかして、籐の杖をふりまわしながらやって来た。彼は全く意気揚々として、小径をはばむようにして歩き、堂々と呼鈴《ベル》を押すのであった。
「諸君、――」
 ホームズは静かに云った。
「これは我々はドアの蔭にかくれた方がいいようだよ。あんな奴の相手になるには、うっかりしたことは出来ないからね。それから検察官、手錠が入りますよ。さあ黙って、――」
 一分間ほどの間――我々は息を殺して待った。忘れようとしても、決して忘れることの出来ない一分間であった。やがてドアは開いて、その男は中に入って来た。と、――思う中《うち》に、ホームズはピストルをその男の頭に狙いつけ、マーティンは素早く、手錠をはめてしまった。こうしたことが、全く疾風迅雷的にやられたので、流石の悪漢もただ茫然として、何もかもすんでからやっと、自分が待ち伏せをくったのだとわかった。その男は私達を、次から次と、その黒い鋭い目で睨みつけた。そして最後に、ゲラゲラと苦しい笑い声を上げた。
「いや各々方、なかなかう
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