、私は上官に対して、私の職責を全うしなければなりません。それでもしそのエルライジにいる、アベイ・スラネーなる者が、本当に下手人であるとすれば、私がこうしている中に、逃亡でもしてしまうと、とても大問題になりますが、――」
「いや御心配はいらない、――彼は逃亡などはおそらくしないから、――」
「どうしてそう仰有います?」
「逃亡することはもう、犯罪を自白していることだからね」
「それでは逮捕に向おうではございませんか?」
「いや、もうじきにここに来る」
「ではどうしてここになぞ来るのでしょう?」
「さっき手紙を書いて、招んでやったから、――」
「いやホームズ先生、それはちょっと当《あて》にはなりますまい。あなたがお招びになったって、その者は来ると云うわけはございますまい。それどころかかえって、感づいて逃亡することになりはしませんでしょうか?」
「いや私も、その手紙のこしらえ方は知っているつもりだがね」
 シャーロック・ホームズは云った。
「論より証拠――大体間違いはなさそうですよ。ほら、その紳士御自身で、御出張になったよ」
 一人の男が玄関の方に、大股に歩いて来るのであった。その男は、背の
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