まく、仕組んだと云うわけですか、――これはとんだ災難に遭ったものだ。しかし僕はヒルトン・キューピット夫人の手紙に答えるために来たのです。夫人はここに居るかどうか、教えてくれないですか? 夫人は僕を陥れることに与《あず》ったのですか?」
「ヒルトン・キューピット夫人は、瀕死の重傷を負うているのだよ」
その男は嗄《しわが》れた声で、家中に響き渡るように、悲叫《ひきょう》を上げた。
「あなた方は気が違っているのだ!」
その男は激しく叫んだ。
「負傷したのはヒルトン・キューピットで、彼の女のはずはない。誰があの可愛いエルシーなどを傷つけるものか! 私は彼の女を威かしはしたかもしれないが、それは神様もお許し下さろう。――しかし私は彼の女の美しい頭の、髪の毛一本にさえも触れはしないのだ。さあそれを取り消しなさい。彼の女は決して負傷しないと云って下さい!」
「彼の女は死んだ夫の側《そば》に、ひどく怪我をしているのを発見されたのだ」
彼は深い呻吟声《うめきごえ》を上げながら、腕椅子に崩れるように腰かけて、手錠のかかった両手で顔を蔽うた。五分くらいの間は、全く黙りこんでいたが、それからまた顔を起し
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