げて行った。田舎医者は、患者のところに出かけたので、もう私と検察官と三人だけになってしまった。
「さあそれでは、この一時間の間を、最も愉快に、最も有益に過そう」
 ホームズはこう云って、テーブルに椅子を引き寄せ、変なおどけたような、舞踏人を書いた紙片《かみきれ》を、その前に拡げた。
「いや、わが友人のワトソン君、君には君の持前の好奇心を満足させずに、今まで待たせておいたことの、埋め合せをしなければならないし、それから検察官、あなたにはこの事件の一切は、最も刮目《かつもく》すべき職業上の研究問題として現われるでしょう。それでまず第一にあなたにヒルトン・キューピット氏が、ベーカー街で私に相談に来られた事情についてお話しなければならない」
 彼は簡単に要領よく、前に述べたようなことを概略して話すのであった。
「ここにこう云う全く奇妙なものがありますがね。まあ誰が見たって、これがあんな恐ろしい悲劇の、先駆であったと云ったら、まず一笑に附してしまいたくなりますがね。私は元来、暗号記号については、いささか自信があって、それについてはつまらない論文もありますが、その中で私は、百六十種の暗号を解析して
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