君は本当にやられたのじゃ。だから私はそれ以来、常に自分の身を用心しとる。――だが、君はどうしてそれが分かったのかね」
「あなたは実に素晴らしいステッキを持ってらっしゃるじゃありませんか」
僕は答えた。
「僕はそこにある銘刻を見て、まだそれはあなたがお持ちになって一年とはたたないと思ったのです。だがあなたはそのステッキの頭に穴をおあけになって、それを頑丈な武器にお作りになるため、その穴の中に鉛をおつぎ込みになるには、ずいぶんお骨折りになったでしょう。――そんなわけで、もしあなたが何か身に危険を持っていらっしゃらない限り、そんな御用心をなさるわけはないと思ったのです」
「それからまだほかには?」
彼は笑いながらきいた。
「あなたはお若い頃に、かなりはげしくボキシングをなさった」
「それも君の云う通りじゃ。――どうしてそれが分かったかね? 私の鼻すじでも少しねじれとるからね?」
「いいえ、そうじゃありません」
僕は云ったよ。
「あなたのお耳です。それはボキシングをやる人特有の、独特な平たさと薄さとを持っていますよ」
「それからまだほかには?」
「あなたは鉱山で採鉱をかなりなすった。その
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