手のタコ[#「タコ」に傍点]で分かります」
「私は私の財産は金鉱でつくったのです」
「ニュウジーランドにいらしったことがおありでしょう」
「それもその通りじゃ」
「日本へいらしったでしょう」
「行きました」
「それからあなたは、頭文字がJ・Aと云う方と、非常に近しくなすっていらっしゃったでしょう。そうしてその後あなたは、その方のことはほとんどお忘れになっていらしった」
 トレヴォ氏は静かに立ち上って彼の大きな碧い両眼を、不思議そうに僕の上に注いだ。そしてじっと僕を見詰めていた。が、やがて、彼は気が遠くなったもののように、バタと前へのめって、そこに出してあった胡桃《くるみ》の中に顔を突っ込んだ。
 その時、彼の息子と僕とは、どんなにびっくりしたか分かるだろう。ワトソン。――けれどこの激動はまもなくなおった。僕たちが彼のカラーをはずしてコップから水を彼の顔の上にふきかけてやると、一二度呼吸をひいていたが、やがて起き上った。
「ああ、お前たち!」
 彼は無理に笑いながら云った。
「もう大丈夫だから安心して下さい。――私は強そうに見えて、心に弱い所があるのですな。でも、私の命をとるほどではない
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