が鳴いていたし、見事に育った魚もたくさんいたし、家の中には、私の想像ではたぶん先代から受けついだものだろうと思うのであるが、ちょっとした文庫もあり、お料理も決してまずくはなかった。だからよほど気むずかしい男でない限り、そこで愉快に一ヶ月暮すことは何でもないことだった。
トレヴォの父親は男やもめで、私の友達は彼の独り息子だったのだ。もっとも私のきいた所によると娘さんが一人あったんだそうだが、バーミングハムへいった時、ジフテリアで死んじまったのだそうだ。――この父親と云う人に、大変、僕は興味を持った。彼は余り学問はしていなかったが、しかし肉体的にも精神的にも素晴らしい原始的な力を持っていた。彼はほとんど、どんな本も読んではいなかったけれど、方々へ旅行し、世界のいろんな所を見聞し、そうして一度見たり聞いたりしたことはみんなちゃんと覚えていた。外見は頑丈な逞しく太った男で、灰色の頭の毛を生えるままにしておいて、日光にやけた赫ら顔で、碧い眼は、狂暴に近くさえ見えるほどに鋭かった。しかも彼はその田舎地方では、慈悲心と親切心とで有名であり、彼の判事席からかける言葉のやさしいことは、周知の所だったの
前へ
次へ
全47ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三上 於菟吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング