の父親の心を強く打ったことは、彼の父親の行動の一つ一つに現れているのを見ても確かだった。そうして遂に、私は彼の父親の不安の原因になっていると云うことが分かったので、もうそろそろそこから引き上げようと思った。ところが、ちょうど、私が帰る前日のこと、後になって非常に重大事件を引き起こした所の、ある出来ごとが持ち上ったんだ。
僕たち三人は、庭の芝生の上の椅子に腰かけて、沈み行く太陽を眺めながら、広々としたそこからの眺望を楽しんでいた。と、その時女中が来て、トレヴォ氏に会いたいと云う人が玄関に来ていると知らせた。
「何と云う名前じゃ?」
その家の主人はたずねた。
「何ともおっしゃらないのでございます」
「なんだって云わないのじゃ?」
「あなたが御存じだ[#「だ」は底本では「た」]と云っております。そしてただ、ちょっとお話したいんだって」
「こっちへ通してくれ」
しばらくすると、おどおどした様子の、小さな干からびたような男が、足を引きずって歩きながらそこに現れた。その男は袖に一ぱいコールタールの汚点のついた、赤と黒との市松模様になった胸のあいたジャケツを着て、水兵ズボンをつけ、ぼろぼろに破
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