うとして腕をおまくりになった時、僕はあなたの肱の所にJ・Aと刺青《いれずみ》してあるのを見たんです。その字は今でも読めます。けれども字をブルブルさせて分からないようにしてあったり、その字の周囲の皮膚を汚してあったりしてある所から見ると、確かにそれを消してしまおうとなすったことがハッキリ分かります。そこで、それらの頭文字は、かつてはあなたに大変親しい方であったが、後にはそれを忘れようとなすったと云うことが明かになります」
「君は何と云う眼を持ってるんだ」
と彼は、幾分ホッとしたような溜いきをついて云った。
「君の云う通りじゃ。だが、私はその話をするのはいやじゃ。この世のすべての幽霊の中でも、私の過去の恋の幽霊は最も悪い幽霊じゃ。玉突部屋へ行こう。そしてゆっくり煙草でも吸いながら話そう」
その日から、トレヴォ氏の私に対する態度は、親切でありながら、その中に何か常に疑惑の目を含ませてあるようになった。彼の息子さえそれを認めたくらいなんだ。
「君は僕の親じの態度をかえさせちまったねえ」
と彼は云った。
「親じはもう君には何もきかんよ」
彼はその理由は説明しなかった。しかし私の言葉が、彼
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