れた重そうな靴をはいていた。彼の顔は痩せて日にやけてずるそうで、ニヤニヤ始終笑って、不揃な黄色い歯を見せていた。そして皺だらけの腕は、船乗り独特のやり方で、半分だけ組んでいた。その男が芝生を横切って僕たちのほうへ近寄って来た時、僕はトレヴォ氏が咽喉《のど》の中で、あッと云うようなシャックリをする時のような声を出したのを耳にした。そして彼は椅子から立ち上ると、家の中に走り込んだ。が、すぐ引き返して来た彼が、僕の側《そば》を通る時、僕は強いブランデーの臭いをかいだのだ。
「おい、君」
と、彼は云った。
「どうしろと云うんだい?」
船乗りは立ち止って、じっと目を据え、同じようにだらしなく口をひらいてニヤニヤ笑いながら、彼を見詰めた。
「俺を忘れたかね?」
彼は云った。
「何を云うんだ、おい。ハドソンじゃないか」
トレヴォ氏は驚いたような口調で云った。
「ハドソンだよ。檀那」
船乗りは云った。
「三十年、もっとにもなるな、お前さんに別れてから。お前はこうやって今じゃお前の家にいるが、おいらまだ塩漬樽の中から、塩臭え肉をつまみ出して喰ってるのよ」
「チェッ。君は、僕が昔のことを忘れとり
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