て通るのであった。
彼女は、瀬戸内海を傍若無人に通り抜けた。――尤も、コーターマスター達は、神経衰弱になるほど骨を折った。ギアー(舵器)を廻してから三十分もして方向が利いて来ると云うのだから、瀬戸中で打《ぶ》つからなかったのは、奇蹟だと云ってもよかった。――
彼女は三池港で、船艙一杯に石炭を積んだ。行く先はマニラだった。
船長、機関長、を初めとして、水夫長《ボースン》、火夫長《ナンバン》、から、便所掃除人《ドバス》、|石炭運び《コロッパス》、に至るまで、彼女はその最後の活動を試みるためには、外の船と同様にそれ等の役者を、必要とするのであった。
金持の淫乱な婆さんが、特に勝れて強壮な若い男を必要とするように、第三金時丸も、特に勝れて強い、労働者を必要とした。
そして、そのどちらも、それを獲ることが能きた。
だが、第三金時丸なり、又は淫乱婆としては、それは必要欠くべからざる事では、あっただろうが、何だってそれに雇われねばならないんだろう。
いくら資本主義の統治下にあって、鰹節のような役目を勤める、プロレタリアであったにしても、職業を選択する権利丈けは与えられているじゃないか。
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