スを力一杯、蹴飛ばした。
 コンパスは、グルっと廻って、北東《ノースイースト》を指した。
 第三金時丸は、こうして時々、千本桜の軍内のように、「行きつ戻りつ」するのであった。コムパスが傷んでいたんだ。
 又、彼女が、ドックに入ることがある。セイラーは、カンカン・ハマーで、彼女の垢にまみれた胴の掃除をする。
 あんまり強く、按摩をすると、彼女の胴体には穴が明くのであった。それほど、彼女の皮膚は腐っていたのだ。
 だが、世界中の「正義なる国家」が連盟して、ただ一つの「不正なる軍国主義的国家」を、やっつけている、船舶好況時代であったから、彼女は立ち上ったのだった。
 彼女は、資本主義のアルコールで元気をつけて歩き出した。
 こんな風だったから、瀬戸内海などを航行する時、後ろから追い抜こうとする旅客船や、前方から来る汽船や、帆船など、第三金時丸を見ると、厄病神にでも出会ったように、慄え上ってしまった。
 彼女は全く酔っ払いだった。彼女の、コムパスは酔眼朦朧たるものであり、彼女の足は蹌々踉々として、天下の大道を横行闊歩したのだ。
 素面の者は、質の悪い酔っ払いには相手になっていられない。皆が除け
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