、踏みつけても、踏みつけても、溜飲のように、それはこみ上げて来るのだった。
 病める水夫は、のたうちまわった。人間を塩で食うような彼等も、誇張して無気味がる処女のように、後しざりした。
 彼等は、倉庫から、水火夫室へ上った。
「ピークは、病人の入る処じゃねえや」
「ピークにゃ、船長だけが住めるんだ」
 彼等は、足下から湧いて来る、泥のような呻き声に苛まれた。そして、日一日と病人は殖えた。
 多くもない労働者が、機関銃の前の決死隊のように、死へ追いやられた。
 十七人の労働者と、二人の士官と、二人の司厨《コック》が、ピークに、「勝手に」飛び込んだ。
 高級海員が六人と、水夫が二人と、火夫が一人残った。
 第三金時丸は、痛風にかかってしまった。
 労働者のいない船が、バルコンを散歩するブルジョアのように、油ぎった海の上を逍遥し始めた。
 機関長が石炭を運び、それを燃やした。
 船長が、自ら舵器を振り、自ら運転した。
 にも拘らず、泰然として第三金時丸は動かなかった。彼女は「勝手」に、ブラついた。
 日本では大騒ぎになった。――尤も、船会社と、船会社から頼まれた海軍だけだったが――
 やが 
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