はなかなかすまないばかりでなく、まるで親子喧嘩でもしてゐるやうな声高になつて、その揚句には、私に構はず、二人でドンドン上流へ行くのだつた。
私は二人の後からついて急いで歩いた。
そこから直ぐ医者の家であつた。
道より一段低く、その玄関があつた。
待合室は患者でゴッタがへしてゐた。大抵は負傷者であつた。婦人科が専門のこの医師は工事場について歩いて、殆んど外科を専門にしてゐた。
太田は玄関に地下足袋を脱ぐ時、私に気がついたと見えて、
「この藪医者は怪しからんです。うちの親爺には、死亡の原因が負傷にあると云つたんださうだが、おぢ(万福の父)には胃が悪いと云つたんだ。それで、今まで、医者の前で、親爺とおぢと医者と三人で、喧嘩をしてゐたと云ふんです。あんたも立ち会つて話を聞いて下さい」
さう云つて、太田父子は、待合室を通り抜け、病室の廊下を通り抜けて、川を見晴らしてゐる医者の家の居間に入つて行つた。
その居間には、丸木の大きな火鉢があつて、川を背にして、医者とその養子と、こつち側に万福の父と、安東とが坐つてゐた。
なか/\話は片づかなかつた。
何故かと云へば、医師の診断は、死
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