は、子供にブラ下られると、その頭を撫でてやつた。そして、馬が蠅を追つぱらふ時のやうに首を振つた。
 私もそのやうに首を振りたかつた。もし、万福の死の事が、そのために忘れられるのだつたら。
 私たち二人は、そのことについて、一言も云ひはしなかつたが、万福の死について、申し訳が無い、と云ふことを、心の中に深く蔵ひ込んでゐた。それが直接の原因であらうと、全く関係がなからうと、とにかく、ハッパの石に当つて怪我をしたのだ。その後一月ばかりで「飯が食へなくなつて」死んだのであつた。

 陽は汗ばむほど暖かかつた。
 山羊と角力をとつてゐる子などは、汗をかいて、汚れた手で拭くので、真つ黒になつてゐるものもゐた。
 いつまでも子等の遊びに見とれてゐる訳にも行かないので、川原から断崖の下の道に上つて、私達は上流に向つた。
 飯場街と飯場街を繋ぐところに、やはりバラックの商店街があつた。
 そこは停留場の真下三百尺位の、石崖の下で、発電所に近かつた。
 そこで、私たちは太田の父に会つた。

 太田の父は、何か憤つたやうな声で、太田に話しかけた。
 私は一歩避けて、二人の話のすむのを待つてゐた。が、二人の話
前へ 次へ
全22ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング