ら川向ひの製材所に行つて、棺桶の板を持つて来よう、と云ふことにして、私たちは歩き出した。
 飯場街で飼つてゐる豚だの、山羊だの、鶏だのは、平和に鳴いてゐた。
 夏の大洪水で流された飯場の跡は、綺麗な砂浜になつてゐた。そこでは豚の児を引つ張り出して、万福位の、未だ学校に上らない年輩の子供たちが、その耳を掴んで、丸つこい背に乗つて遊んでゐた。豚の児が水溜りに入ると、子供たちは足を上げて水に濡らさないやうにしたり、水溜りから追ひ出すために、外の子たちが竹の棒でつつついたりしてゐた。
 外の一群は山羊の仔と角力をとつてゐた。
 山羊の仔は迷惑がつて、逃げようとするのだが、周りに一杯子供たちがゐるので、逃げることも出来ないで、のび上るやうに首を上げて、メーと鳴いたりするのだつた。
 その砂浜は、幾度飯場を建てても、洪水の時に必ず流されて終ふので、今では、誰も諦めてしまつて、子供たちの運動場になつてゐた。
 私たちは、そこを通りかかつた時、云ひ合はしたやうに、足を止めて、その戯れに眺め入つた。
 子供たちの中には、太田を見付けて、
「おぢさん」と駆けて来て、半天の裾にブラ下るものもあつた。
 太田
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