て、始終眠くて堪らないと云つた風な状態で、死の方に近づいて行く人々にとつても、他の人の臨終を見ると云ふことは、その眠む気に似たものを一瞬吹き飛ばし、燃えるやうな生命の力を電光のやうに感じさせる刹那なのであつた。
 私はハッキリさう意識して、万福を訪問したのではなかつた。そんな功利的な気持ではなかつたが、……詮索すれば、人間の美しいとされてゐる行為にも、裏があるのだつた。
 万福のトゲトゲした衰へた顔を、眼の焦点を合はせる訳でもなく見守つてゐた私は、生命と云ふものを考へた。
 万福の生命は、万福と共にあるのだ。

「たうとう万福が死んだ」
 と、太田が私に告げに来た。
 私は松丸太の枕木の上に腰を下して、スパイクを抜いてゐた。太田は私と並んで腰を下して、投げ出すやうに云つた。
「可哀相なことをしたねえ。可愛いい子だつたが」
 と、私は金棒(スパイク抜きの)を、足下に転がして、
「ぢやあ、とにかく、行かう」
「直ぐに行つてくれるかね」
「今からね。何にも尽すことは出来ないかもしれないが」
 万福の飯場に行つて見ると、色紙をどこからか買つて来て、それを切り抜いてゐた。
 万福の父や母の姿は見
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