と沢蟹の小さいのを、一升も二升も捕ることさへあつた。それは天ぷらにしても、煮つけても美味かつた。
その渓流の一部分に、トロッコの線を敷かねばならなかつた。
電車の線路工事に必要な、コンクリ材料の砂やバラス、玉石などを、本流の川原からウインチで捲き上げようと云ふ段取りなのであつた。
線路を敷きかけて見ると、方々に岩盤の出つ張りや、文字通り梃でも[#「梃でも」は底本では「挺でも」]動かない大きな玉石などがあつた。それはハッパをかけて取り除かねばならなかつた。
A橋と云ふ三間位の橋の袂には、農家が一軒、天竜の断崖とA川とに足を突つ張るやうにして立つてゐた。その農家に楔でも打ち込んだやうに、小さな飯場が一つ建つてゐた。
飯場は水の便利のいい所を選んで建てられるので、その下流よりにも沢山飯場が建てられてゐた。
飯場があると必ず子供たちが沢山ゐるのだつた。
だからハッパをかけたりする時は、その渓流で米を磨いだり、洗濯をしたり、胡桃を拾つたり薪を拾つたりする、飯場の女房連や子供たちに、危険を知らせ、上下流の工事場を往来する人々に、ハッパを知らせる為に、ベルを振つて、ハッパだあ、ハッパだ
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