断片が、私の頭をかすめるのであつた。
だが、私は今まで一度だつて、政治家になつたことはないし、なりたかつた事もないのだ。まして、私が政治と縁を切ると決めようが、決めまいが私の一時一瞬の生活も、政治の下にあるのだ。私の考へや決心などは全つ切り問題にはならないのだ。
要するに生命と云ふものは、動物的なものなのだ。この動物的な生命を、生き甲斐のあるやうにするのには、動物的な生活態度が必要なのだ。
兎や雷鳥が、雪の降る時に白色に変り、草の萌え茂る時に、その色に変るやうに、カメレオンのやうに、絶えず変色したり、尺取り虫見たいに、枯枝と同じ色をして、力んでピンと立つてゐれば、生命と云ふものは保つものなのだ。
それは何等卑下する必要のないことなのだ。大体、命と云ふものがそんなふうなものなのだからだ。
だが、動物も人間となると、勿体をつける必要が生じて来るのだ。余りアッサリし過ぎてもいけないし、正直過ぎても困るのだ。
かう云ふ風なことを考へてゐる人間は、子供と喜を共にすることが、時とすると困難になつて来る。
四
私はもう、私には見切りをつけた。
何の才能もないし、学問もない
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