のために、彼が土竜のように陽の光を避けて生きなければならなくなった、最初の拷問! その時には、彼は食っていない泥を、無理やりに吐き出さされた。彼の吐いたものは泥の代りに血ににじんだ臓腑であった。
 汚ない姿《なり》をして、公園に寝ていた、(それより外にどうする事が出来たのだ!)ために、半年の間、ビックリ箱の中に放り込まれた。出るとすぐ跟け廻され、浮浪罪で留置された。それが彼の生活の基調に習慣づけられた。
(どうせ、そうなる運命なら、それに相当した事をしなけりゃ損だ! 俺も打ん殴ってやれ!)
 そうなるためには、留置場や、監房は立派な教材に満ちていた。間違って捕っても、彼の入る所は、云わば彼の家であった。そこには多くの知り合いがいた。白日の下には、彼を知るものは悉くが、敵であった。が、帰って行けば、「ふん、そいつはまずかった」と云って呉れる(友)がいた。
 だんだん(仕事)は大きく、大胆になって行った。
 汽車は滑かに、速に辷った。気持よく食堂車は揺れ、快く酔は廻った。
 山があり、林があり、海は黄金色に波打っていた。到る処に(生活)があった。どの生活も彼にとっては縁のないものであった。
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