に幸福を欲するのであるから、自分自身を不幸にすることを避ける。
然し、他の人が不仕合な生活をしてゐることは、進んで犠牲になると云ふ覚悟のない人にも、決して快よい感じは与へないのである。そこで「どうせ今の世の中は利己主義が勝つんで、俺が社会改良運動に携つて目玉を剥いて見た処で何にもなりやしないんだ。人類の多数は矢つ張り不幸なんだ。詰り俺は、俺は詰りその、俺さへ良けりやそれでいいんだ」と、考へたくなるのである。
人は分れて行く。各《おの/\》の道を求めて果しのない迷路へと離れ離れに進んで行くのである。
三
兄弟よ。梅雨らしい空が、陰鬱にわれ等の頭を押しつけてゐる。
われ等は暗い空と、資本主義の大磐石の下に永久に喘がねばならぬであらうか。われ等はどのやうに焦つても、どのやうに駆けて見ても此地上以外には住めないと同じやうに、あらゆる社会悪の圧迫以外に首を擡《もた》げることは能きないだらうか。
兄弟よ。沢庵漬は上に加はる圧迫が大きければ大きいだけ、お互に密着《くつつ》き合ひ緊《ちゞ》めつけ合ふのである。が、労働者は沢庵であるか。
兄弟よ。われ等の運命は沢庵である。すつか
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