、飯を喰ふことと、寝ることだけだ。その飯だつて……。
 元気のある若い連中はそれでもどうにか為ようと焦つてゐる。それがどうにかなりさうだとすぐに首になつてしまふ。組合などと云ふことは夢だ、夢だ。
 労働者ほど詰らない者は、世界中どこを訊ねても恐らくあるまい。一番苦いのが監獄の生活で、その次が労働者で、その次に乞食だらう。尤も此順序は例外なしにさうであるとは勿論云へないが。
 労働者は大抵正直な善良な人間に依つて成り立つてゐる。正直であり善良であるために、生活が全で滅茶々々に資本家のために踏み蹂られる。と云ふことは、決して労働組合主義者や、社会主義者や宗教家のみが憂ふることではない。
 国家さへも労働者の境遇を改善することに留意し初めたのである。
 誰でもが平等に幸福が無ければならぬと云ふことは、誰でもが知つてゐ、欲してゐることである。たゞそれを実現することが非常に困難である。実際問題に打《ぶ》つ衝《つか》るとその衝に当るものは、幸福の代りに惨澹たる不幸を脊負込むのである。
「誰もが幸福であるやうに俺が努力をすると、第一此俺が不幸にならねばならぬ」のである。処が大体人間は神の国を求める位
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