も圧迫でも黙つて堪へて床の下へ吹き込まれた草花の種見たいに、碌に芽も出さず、伸びもせずに、痩細つて枯れてしまふんだ。成程われわれは立派な生産者だ。立派な生産者には違ひあるまいが、生きて行く先の無いことも間違ひなしだ。起きて寝るまでは工場で働き続け、寝て起きるまでは夢も見やしない。世の中にはどんなことが起つてゐるか、どんな風が吹いてゐるか、そんなことは全《まる》で分らない。小学校の三年まで行つて職工になつたが、なりたてのほやほやは自分の名位書けた。今はどうだ。駄目だ、駄目だ。鉛筆を掴んだつて掴んだやうに感じない。もう俺の手が持つたと感じるのはハンマーの柄か、デリック位なもんだらう。絶望だ! 何もかも駄目だ! 稀の公休日は嬉しくも何ともない。俺たちに金を呉れずに休みを呉れたつて何になる。女房に甲斐性なしと罵られる位が関の山だ。活動どころかと子供の頭を張り飛ばすのもいゝ気持ちぢやない。あゝいやだ、いやだ。
 いつそのこと女房も子も放つといて、勘定を貰ふとすぐその足で二三日遊び続けてやらうか、などと考へることさへある。さうする仲間がある。けれどもそれも俺には出来ない。俺に出来ることは働くことと
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