いゝ。又は、われ等及その家族の胃の腑と腸とを切開除去した後にするがいい。
 兄弟よ。おとなしく暴風雨の過去るのを待たう。希望と憧憬とを以て、軈て来る理想の暖かい光を待たう。

     二

 陰鬱な気持ちである。兄弟たちは傍目を振らずに働いてゐる。どこともなく陰鬱な顔付きをして。
 陰鬱になる筈である。一体われ等は何を笑つたらいゝか。切《せ》めて自分の運命の儚さを嘲笑ふ位なものである。
 一生懸命糞真面目に働いて、四十円位月に貰つて、女房と三人の子供とを養はねばならぬ。子供に活動を強請《せが》まれても、見に連れて行く代りに拳骨を一つ食はせるより外に仕方がない。女房は毎日のお菜《かず》で困難を極める。いやだいやだ、全く生きるのが厭になる。生きるのは厭になつても死ぬまでの決心はつかない。工場で負傷して死んでさへ遺族は路頭に迷はねばならぬ。況《ま》してたゞで死んだものならそれこそ鐚《びた》一文にだつてなりやしない。俺たちがかうして苦しんで行くのは仕方がないと諦めもせうが、子供はどうだ。「十歳になるのを待ち兼ねて」職工だ。矢つ張り俺と同じ厭な苦しい、暗い運命を脊負はさにやならぬ。どんな無理で
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