ない事はしない。だが、「少し悠くりしすぎる」と思わずにはいられなかった。
「おい。もう、半分燃えてるぞ!」
と、小林はすぐ後ろから、秋山へ喚いた。
が、秋山は、云わば、彼の痛い所を覗き込んででもいるように、その眼は道を見てはいなかった。
吹雪も、捲上道路も、何も彼は見ていなかった。何の事はない、脱線して斜になった機関車が、惰力で二十間も飛んだ、と云った風な歩きっ振りであった。
小林が彼と肩を並べようとする刹那、彼は押し潰した畳みコップのように、ペシャッとそこへ跼った。
小林はハッとした。
と、同時に川上の捲上の方を見た。が、そっちは吹雪に遮られて、何物も見えなかった。よし、見えたにしても、もう皆登り切って、風呂に急いでいる筈であった。
風が、唸った。雪が眼の中に吹き込んだ。
「オイ、駄目だ。どうした!」
秋山は動かなかった。
「オイ、もう直ぐだ。もうちょっとだ。我慢しろ!」
秋山は動かなかった。
咄嗟に小林は、秋山を引っ担いだ。
然し、一人でさえも登り難い道を、一人を負って駈ける事は、出来ない相談だった。
彼等が、川上の捲上小屋へ着く前に、第一発が鳴った。
「ハ
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