そこを避難所に当てねばならなかった。と云うのは、そっちに近い方に点火したものは、そっちに駈け登る方が早かったから。
秋山は、ベルの中絶するのを待っている間中、十数年来、曾てない腰の痛みに悩まされていた。その時間は二分とはなかった、が彼には二時間にも思えた。
秋山は平生から信じていた。導火線に火を移す時は、たといどんな病気でも、一時遠慮するものだ、と。それは足を打ち貫かれた兵卒が、歩ける訳がないのに歩くのと同じだと思い込んでいた。そして、それは全く、全然同じとは云えないにしても、全然違ってもいなかった。
彼はベルの中絶した時に、導火線に完全に火を移し了えはした。
然し、彼が、痛いのは腰だ、と思っていたのに、川上の捲上線に伝って登り始めるのと、カッキリ同時に、その腰の痛みが上の方に上って来るのを覚えた。
彼は、駈けていた積りであったのに、後から登って行く小林に追いつかれた。
然し、一体、馴れた坑夫は、そんなに逃げるように慌てて、駈けはしないものだ。慌てて石に躓く事がある事を知っているからだ。
小林は、秋山よりも、もっと熟練工であった。だから、彼とても特別に急ぐような、見っとも
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