は、坑夫たちには懐しいものであった。その煙は吹雪よりも迅くて、濃かった。
 各々が受持った五本又は七本の、導火線に点火し終ると、駈足で登山でもするように、二方の捲上の線路に添うて、駆け上った。
 必要な掘鑿は、長四方形に川岸に沿うて、水面下六十尺の深さに穴を明ける仕事であった。
 だから、捲上の線は余分な土や岩石を掘り取らないように、四十五度以上にも峻嶮に、川上と川下とから穴の中に辷り込んでいた。そして、それはトロッコの線路以上に広くは幅を取ってなかった。
 これ等の事は、設計の掘鑿通り以外に、決して会社が金を出しはしない、と云う事に起因していた。何故かなら会社で必要なのは、一分一厘違わず、スポッとその中へ発電所が嵌りさえすればいいのだったから。
 川下の方の捲上げ道を登れば、そのまま彼等は飯場まで帰る事が出来た。飯場には吹き曝しであるにしても風呂が湧いていた。風呂は晩酌と同じ程、彼等へ魅力を持っていた。
 川上の方は、掘鑿の岩石を捨てた高台になっていて、ただ捲上小屋があるに過ぎなかった。その小屋は蓆一枚だけで葺いてあった。だから、それはただ気休めである丈けではあったが、猶、坑夫たちは
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