た。
五人の坑夫、――秋山も小林も混って――は、各々口にバットを喞えて、見張からの合図を待っていた。
何十年も、殆んど毎日のように、導火線に火を移す彼等であっても、その合図を待つ時には緊張しない訳には行かなかった。
「恐ろしいもんだ。俺なんざあ、三十年も銅や岩ばっかり噛って来たが、それでも歯が一本も欠けねえ」
「岩は、俺たちの米のおまんまだ」
と云う程、慣れ切った仕事であったのに、それでもその一瞬間は、たとい夏であっても体のどこかに、寒さに似たものを感じるのであった。
見張りで、ベルをガラン、ガランと振り始めた。吹雪の呻りとベルの音とが、妙に淋しくこんがらかって、流れて行った。
ジゴマ帽から、目と口と丈け出した五人の怪物見たいな坑夫たちは、ベルが急調になって来て、一度中絶するのを、耳を澄まし、肩を張って待った。
ベルが段々調子を上げ、全で余韻がなくなるほど絶頂に達すると、一時途絶えた。
五人の坑夫たちは、尖ったり、凹んだりした岩角を、慌てないで、然し敏捷に導火線に火を移して歩いた。
ブスッ! シュー、と導火線はバットの火を受けると、細い煙を上げながら燃えて行った。その匂
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