によって、法においても戦うつもりだ』
 白水がその重々しい論調で、肋骨《ろっこつ》の間から、心臓を目がけて、錐《きり》でも刺すように話していると、相手の後明は、最初はいやに横柄《おうへい》ぶって、虚勢を張っていたんだが、しまいには、おそろしくなったらしいんだ。
 『しかし、私はまだ、馘首《かくしゅ》するとも退職せよともいいはしないんですよ。ただそれは例のないこった、今まではこういう仕来たりであったといったまでですよ』と、その千枚張りの面《つら》の上に油をかけやがるんだ。
 『悪い例なら破ったらどうだというんだ。旧来の陋習《ろうしゅう》を破ったらどうだというんだ。一切|合切《がっさい》を前例に守っていたら、人間はいまだに、人間の肉を食って、生活しなければならないんだ。まだ人間が人間の肉を食っているんだが、それがなくなるためには、あらゆる旧来の陋習が破らるべきなんだ。ことに法律でさえ保障しているような範囲内にまで、労働者を搾取し劫略《ごうりゃく》することは、明らかに人間|嗜食《ししょく》の一形式だ』白水はますます彼の錐《きり》をもみ込んで行った。
 『いや、君のように興奮しちゃ困りますよ。
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