が先決問題だというような顔つきできいた。
『そうです』
『そうかね』と、今度はその男にきいた。
『へー』と、どっちだかわからぬ返事をその男はした。
『その事が、その積立金払い戻しについて、それほど重大な先決問題じゃないではありませんか、問題はきわめて簡単でしょう。労働者がその売った労働力に対して支払った金額の一部を、会社が労働者のために積み立ててある、強制的に。その金額を、労働者が返してくれというのは、まるで一分の思考をも要しないことじゃありませんか』白水はまくし立てた。
『そりゃね、だれも払わんとはいわんのだが、どういう手続きで持って行こうってんだね』
『支払い伝票さえ書けばいいこっちゃありませんか』
『つまり、退職しようというんだね』と、意地わるの後明人事係はいった。
『退職! だれが、いつ退職なんていったんです』と白水は少しずつ興奮してやり始めた。
『だが、会社の規則では、積立金は、退職の時に支払うということになってるもんだからね。従って、積立金を受け取る者は、同時に、賃銀の残額をも一緒に支給されることになるわけだね』と、その豚めは、いやに尻《しり》を落ちつけて
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