んだ。そして、その金を一定の額だけ、吉凶禍福に応じて、会社からいくらかの補助金と共に『給与』してもらうんだ。そして毎年一回この金で運動会を開いて、一金一封(五十銭)を酒代として、いただくんだ。工場法の役目を、労働者の負担に転化した型が、すなわちその積善会なるものだったんだ。その積善会のお金の中で私の積立金をくださいと、この男は申し出たんだ。
 もちろんそれは言下にはねつけられて、見舞料として、積善会から二円だけもらえたわけなんだ。ところが二円では何とも話が煮えんとその男はいうんだ。何とかならないでしょうかと、相談を白水に持って行ったんだ。
 『それは、積立金を取ったらいいだろう。積立金は職工の貯金だろう。それを取ったらいいだろう。積善会の方はまた話が何とかつくだろう』ということで、白水は事務所へ、その節くれ立った木の切り株のような男と一緒に行ったんだ。
 工務係の後明《こうめい》という妙な後光の差しそこなったような名前の男が、二人《ふたり》と相対して、何の話だときいたんだ。
 おふくろと、妻と赤ん坊とを、押入れへ押し上げた、この哀れな男は、くどくどと、なぜ波が敷居より上へ上がって来たか
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