彼らは、何かの予感を感じていたのであった。
 火夫室の前では、彼らは、万歳を三唱してセーラーを迎えた。
 その日の出帆は、それでも、水夫らにとっては、「凱旋《がいせん》将軍の故国への船出」の感があった。

     四六

 その航海は異様な航海だった。水夫たちは人間として、取り扱われ初めたように見えた。命令を発するところのメーツらは、彼らが単に、作業の分担的任務から、行動するように命令した。そして、その内容も整頓《せいとん》され、そのために同一の効果に対して、水夫たちは以前の三分の二の労働と時間とで済むくらいになった。
 船長にしろ、ほかのどのメーツにしろ、今では「ゴロツキ」の下級船員たちが、ただもう「みじめに働いている」と言うことだけに、その興味を持たなくなったように見えた。下級船員たちが、「人間」らしくあるということが、今では、彼らの権威を傷つけるという、その妄想《もうそう》から彼らは、解放されたように見えた。
 どことなしに、いや、それどころではない、はっきりと彼らは、あまりに現金すぎるほどに、水夫たちはおろか火夫たちにまでも遠慮していた。
 それは、内実を知らない人々から見る
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