もと》に、生活しようとするだけなんです」静かに彼は答えた。
「私たちは、どこへ行ったっていいところはないのです? え、それは、一体、だれの責任だ。おれの責任だとお前は言いたいんだろう。おれは、今も言ったじゃないか、だれが、頼んで乗ってくれといったと。それに『よりいい条件』の生活がしたかったら、なぜもっと、勉強して上の方へ、昇《のぼ》るようにしないんだ。自業自得を、人の責任におっつけるのは、図々《ずうずう》しすぎるぜ」船長は、こいつ一つ脂《あぶら》をすっかりしぼりぬいてやろうと考えた。そして、それからつっ放す! と。
「ご忠告は、ありがとうございますが、勉強して上へ上がって行く人間があまり多くなると、セーラーなんぞするものが、なくなるだろうと思いまして」彼は危うく笑おうとするところであったが、それだけは取りとめた。
「ばか! お前は、おれを愚弄《ぐろう》してるつもりか! ばか! が、いくら勉強してもばかはばかなんだ。セーラーより上にはなれないんだ。だから、実力さえあったら人に遠慮などせずに、サッサと船長にでも機関長にでもなったらいいじゃないか」
船長は、だんだんストキの話の相手に
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