と思った。大体貴様は、横着だからな。貴様が、小倉や皆をおだててこんなものを出さしたんだろう」彼は裁判官のごとくに訊問《じんもん》した。
「そんなことは、きわめて枝葉の問題と思います。私たちは、食うために船乗りになっているのです。であるのに、船の仕事のために負傷しても、手当をしてもらえないということになれば、私たちは、命をすててかかったも同然です。もっとも、船では命をすててかかってることは、当然だといえば当然ですがね。しかし、ただ、私たちだけが、命を安売りするということは、私たちにも、承知ができないことです」
藤原は、最初の探照弾を打《ぶ》っ放した。
「それじゃ、勝手に下船して行ったらどうだったい。だれが、いつお前に、どうぞ、下船しないで乗ってくださいと頼んだ! 頼んだのはどっちだったか、よく考えて見ろ」
船長が言った。
「私たちは、どこへ行っても、いいところはないのです。だから、自分の『今』の生活を、よりよくする方法をとるよりほかはないのです。この船ばかりへ日が照らないと言って、下船したところで、他の船でも、陸でも同じことです。だから、自分の今いるところで、より良い条件の下《
前へ
次へ
全346ページ中308ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング