のテッペンから四、五間下に見えた。
「桟橋は高いようだが、マストよりは低いんだなあ」波田は西沢にいった。
「そらそうだ、だがどうだい、寒いこたあ、手に感じなんぞありゃしないぜ」
二人《ふたり》は、ペンブラッシュを子供が箸《はし》をつかむようにしてつかんで塗っていた。風のために彼らをつるしているロープは揺れた。彼らは機械体操をする人形のように、足をピンピンさせながらマストから、離れず、即《つ》かずのところで仕事をしなければならなかった。どうかすると二人の労働者は、マストの一つの側で打《ぶ》つかるのであった。
「オイオイ、こっちはおれの領分だぜ!」
「冗談言っちゃいけない」
そこで二人は横をながめる。桟橋が左の方にあれば、西沢が正しいのだ。西沢は船首から船尾を向いて、船首部分を塗るのだった。
彼らをつるしたロープまで、堅く凍ったように感ぜられた。彼らはもちろん「棒だら」のように凍って堅くならないのが不思議であった。
「こんな団扇《うちわ》みたいなボロ船を化粧してどうするってんだろう。え、船長も物好きじゃねえかなあ、いくらお正月だって室蘭でマストのペンキ塗りなんざ、万寿丸の船
前へ
次へ
全346ページ中274ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング