いいようのない状態で、半死のどたん場まで我慢しなければならなかった。
 ことにチエンロッカーと彼女らとの関係は惨鼻《さんび》をきわめた。それは、密航婦を船長とボースンとが共謀で、チエンロッカーの中に隠したのであった。チエンロッカーは、出帆したが最後、入港までは用のないところなのだ、その暗室の鎖の上へ彼女らは、蓆《むしろ》を敷いて寝ていたのだ。彼女らはシンガポーアで上陸して、その遊郭に売られるのであった。水火夫らは毎夜、そのチエンロッカーの蓋《ふた》をあけてやった。彼女らは、運動に出された禁錮囚《きんこしゅう》のように喜んで、おもての船員たちの室へ来て出してもらった礼として、(以下十一字不明)。
 彼女らにとっても、その航海はビール箱や、フォーアピークなどよりも、**であったに違いなかった。船員たちは浮かれ気味の航海を続け、彼女らは一日も早く、動揺しない大地を踏みたいとねがっていた。
 ところが、ホンコン入港の時に、密航婦を、フォーアピークへ移しかえることを忘れなかったボースンは[#底本では「忘れなかった。ボースンは」と誤記]、何と考え違いしたものか、大切のシンガポーアで、有頂天になり過
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