穴の方へ揺るがした。それはちょうどそこへ行ったが、少しおり足らなかった。
 だめだった! はまらなかった。
 「何だ、ボケナス、どうしてはめないんだ! ばか! よせッ!」チーフメーツは頭から、ストキへ罵声《ばせい》を吐きかけた。
 「波田君、降りたまえ! チーフメーツがよせという命令だ」そのまま藤原は、ボイラーからワイアを伝って飛びおりた。波田も続いた。
 「どうした、ストキ、どこへ行くんだ! 畜生!」チーフメーツはまるで狂っていた。
 藤原は下へ降りて、西沢をデッキから見えないところへ呼んだ。
 「君、仕事があれでやれるかい、ばかとか、よせとか、怒鳴り散らされて? え? よそうじゃないか、おれたちあ、船を桟橋まで着けないで下船しちゃおう、ばかばかしいや! 奴隷じゃねえや」藤原はジロリとボースンをにらんだ。
 「よせ! よせ! 全く、こんなボロ船いつだっておりるぜ」西沢も賛成した。
 「ストライクか、それや、ぜひやらにゃならないこった」波田も賛成であった。
 チーフメーツはデッキの上で、餅《もち》をのどにつめでもしたように、あわててしまった。
 ボースンは下で癪《しゃく》を起こしそうに
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