チーフメーツはボースンの周囲をグルグル回りながら、ボースンがばかであることを、ハッキリ飲み込ませてしまったよりほかには、何もしなかった。
 ボースンはあわててしまった。どこから手を出していいか、わからなくなってしまったのだ。
 藤原はボイラーの上に上がって、鉤《かぎ》が当然引っかかるような状態になって来るのを待っていた。そして彼は、普段から、あまりに意気地《いくじ》のない、ボースンや大工が、チーフメーツに「くそみそ」にののしられているのに対して、なおさら腹を立てた。
 「ほんとに貴様らはばかだ! 奴隷《どれい》でもそれほど卑屈じゃないぞ! 水夫らからは月二割も搾《しぼ》りやがって、豚め! チーフメーツの野郎、なにかおれにいって見ろ! 思い知らしてやるから、高利貸の丁稚《でっち》め!」
 彼は、それこそ、抜けかけたボールトのように、ボイラーの上へ突っ立っていた。
 ホックはうまく彼と、向かい合って立ってる波田との間へおりた。波田は腕ほどの太さの、ワイアの鉤穴を持ち上げた。それは一秒間とは持ち続けることのできない重さであった。藤原は、ホックを、彼のからだの重みをもたせて、波田の持っている鉤
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